執筆者について
 越谷琳久
  1.お茶を始めたころ
  2.お薄をいただく   
「茶道一期一会」
第1回 お茶を始めたころ
越谷琳久

 お茶には何となく興味があるけれど、いざお稽古を始めるとなると、ちょっと構えてしまいますね。でも心配ご無用、誰でも初めはそうだったんですから。

 私がお茶を始めたきっかけは、仕事でイギリスへの赴任が決まったことでした。海外で暮らすとなると、急に日本文化が気になり出すものです。自分のなかのニッポンって何だろう。日本文化について聞かれたら何と答えればいいだろう。そんなことを考えているうちに、なぜか「茶の湯」への関心が沸いてきたのです。

 近所には子供の頃から気になっていた立派な門構えのお宅がありました。ときおり着物姿の方が出入りする未知の世界です。そこがお茶の先生のお宅であると知ってから、未知なる世界への好奇心は、いつしかお茶の世界への漠然とした憧れに変わっていたようです。赴任まであと三ヶ月。期間は短くても本格的な稽古をしてみよう。私は思い切って先生のお宅へ電話をかけました。

 冬の夕暮れ、秘密の門は開かれました。瀟洒な門をくぐると青苔が道をなし、飛び石が玄関まで続いていました。通された茶室の床には掛軸と一輪のツバキ。畳の角には炉が切られ、暖かな熱を放っています。釜音は松風のごとく立ちのぼり、何とも言えないわびしさです。やがて先生が道具を持ち出され、さらさらと畳の上に広げられました。釜の蓋が開き、蒸気とともに高鳴る松音。軽やかな茶筅の音。

 勧められるままにお茶をいただき、ホッと緊張が解けたとき、作法など何一つ知らない私をある疑問が襲いました。まさか先生は私に一杯のお茶を出すためだけに、これだけの準備をされたのだろうか。そんな驚きをもって一礼すると、先生は少しく微笑まれたように見えました。

 未知の世界へ踏み込むときは、誰だって緊張するものです。でも、漠然とした憧れさえあれば、あとは好奇心に後押ししてもらいましょう。お茶に興味のある方は、近所の教室へ見学に出かけ、まずは茶室でお茶をいただいてみることをお勧めします。

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